―――――たった一人の、君の為に。 Speaciallity EX 『ある夜のメリークリスマス。』前編 桃源郷では珍しく雪が、街を深々と覆い、長い間降り続いている。それは決してまだまだ降り終わりそうにない。 その銀世界に白く染まった街中を、一際目立つ集団が歩いている。 彼らが辿り着いたばかりの街は、まさにクリスマスムード一色。 その集団の中でも最前列を歩いていた、一番最年少であると思われる少年が歓喜の声をあげた。 「うっわーーー!!スッゲーーー!!街中雪景色!!なぁ三蔵!!」 「オイ猿、あんまりうろちょろすんじゃねぇ!!はぐれても知らんぞ!!」 「とかなんとか言ってるけどよ、結局悟空には甘めーんじゃねーのぉ?あのサルがはぐれたらいっつも俺らに探しに行かせてんだろうが、保護者さんよ?」 「ハハハ、まぁいつもの事ですね。それにしても、このあたりでこんなに雪が降り続くのは本当に珍しいですね。このへんはわりと一年中温暖な気候で有名なんですが、やはり明日がクリスマスだからでしょうか・・・。」 「そーいや街中うっとーしいぐらいクリスマス、って感じだな。俺、サンタ服ってキライ。」 「何でだよ、悟浄?」 「だーぁってよ、サンタ服ってスッゲーごわごわしてて厚着もいいトコだろ?男は別にどーでもいーんだけどよ、美人のねぇちゃんが着てんのは我慢ならねー。折角のキレイな肌が隠れちまったらもったいねーだろ?ま、ミニスカートだったらポイント高けーけどな」 「ハン、くだらんな。貴様は厚着だろーがなんだろーが最後には脱がしにかかるんだろうが。」 「アラァ、三蔵様ったらよく分かっていらっしゃるんじゃございませんコト?脱・チェリーちゃんももうすぐかもな?三ちゃん??」 「テメェ・・・・・いますぐ永久に眠らせて雪の中に埋めてやろーかエロ河童が!!」 「もう悟浄・・・またそんなコトばっかり言ってるとの鉄拳をくらいますよ?ねぇ?」 三蔵と悟浄の言い合いをいつも止めに入る八戒が、助けを求めるように一番後ろを歩いていたに話しかけた。 彼女が一番適任だからだ。なぜなら彼ら二人、いや四人全員が、彼女には弱い。 普段は素直さのかけらもなく、言葉使いも三蔵並に悪いだが、時折見せる彼女なりの優しさと愛らしい笑顔を、彼らは知っていた。 もっとも彼女が彼らに対して笑顔を向けるなど、めったにない事であることも彼らは知っているのだが。 八戒が、に同意を求める。だが・・・・・。 「・・・・・・・・・・。」 「・・・、聞いてます?あの・・・。」 「・・・!!あっ、ゴメン八戒。何?」 「どうかしたんですか?なんだか元気がありませんね、何か気にかかる事でもあったんですか?」 「いや、別に。なんか・・・クリスマスなんだなーって思って。」 普段なら悟浄が最初の教育的指導発言をした時点での鉄拳か回し蹴りが発動されるはずだが、今日はそれがなかった。 その上八戒が声をかけても返事もなく、彼らの会話にも全くのノータッチ。街の風景をただボーッと眺めているようにも見える。 何よりやっと返したあいまいな返事が、なんだか彼女らしくない。 そんな彼女をよそに、悟空はいつも通りの元気な声で再び歓喜の声をあげた。 「イルミネーションとかホントキレイだよなー!!そういやクリスマスってさ、サンタクロースって人が家にプレゼント持ってきてくれるんだろ?なんかスッゲーなぁ!!でも俺、せっかく貰うならどんなプレゼントより食いモンがいいなー肉マン一年分とか!!」 「結局それかよ。肉マンなんざ買って食えばいいだろーが!!俺なら・・・そうだな、美人のねぇちゃんのエスコート付き・その他もろもろ一生分ってのが・・・。」 「くだらんな、サンタクロースなんぞいるわけねーだろうが。だいたい、何の見返りもなしに誰かにモノをやるなんぞ気味が悪い。」 「三蔵、そういう発言はなるべくなら悟空やの前では控えてくださいよ。子供の夢を壊すような発言は良識のある大人としてどうかと思いますよ?」 「この生臭ボーズのどこが良識のある大人なんだよ八戒。コイツにそんなのがあったらって考えるとマジこえー!!」 「おや、僕はほんの冗談のつもりで言ったんですが。どちらかと言えば良識というというよりは非常識ですからねぇ、三蔵は♪」 「・・・・・八戒、お前そんなにこの雪景色の中死体にして転がして欲しいのか・・・?」 「いやーさすがにそれは遠慮します。僕死ぬのは絶対に布団の上で家族に看取られて、って決めてるんで。」 「バカにしないで八戒。サンタなんているわけないじゃん。」 「?」 やっと会話に入ってきたに誰より即座に反応したのは悟空。一番後ろを歩いていたが、一気に彼らの前に出て冷ややかな声を発した。 そして後ろを少し振り返ったと思うと、街中を見渡してこう言った。 その表情は声と同じく、とても冷ややかなもので・・・・・。 「あたしがサンタクロースがいるなんて本気で信じてると思ってんの?それこそバカにしてんじゃない?」 「いや、僕は別にそういうつもりで言ったのでは・・・。」 「まぁどっちでもいーけど。今時サンタなんて信じてんのなんてホントに純粋な子供ぐらいのモンだよ。もっとも、あたしは子供の頃でも信じてなかったけどね、今まで純粋だった頃なんてなかったから。」 「でももしかしたらいるかもしんねーじゃん!!例えいなくても俺、信じたいよ・・・。」 「悟空・・・・・。」 自分が言った事に対して悟空が、声を押し殺されて小さくしていく様をは感じた。彼を少しでも傷つけてしまったのだと。 するとはすぐ後ろにいた悟空に手を伸ばし、抱き締めた。 「えっ、??一体どうし・・・」 「ゴメン悟空、なんかまた酷い事言っちゃったみたい。別に信じてることが悪いって言ってるんじゃないんだよ?誰かを、何かを信じられるってホント凄いと思う。でもあたしは・・・悟空みたいに信じることなんてできないんだ。っていうか、サンタクロースを信じる信じない以前にクリスマスってなんか苦手で。」 「苦手?お前にも苦手なモンなんてあったのかよ?」 「そりゃねー今はともかく小さい頃は。上手く言えないけど、ね。」 悟浄に問われると悟空を抱き締めていた手を離し、再び街中を見渡す。しかしそれは先ほどの冷ややかな表情ではなく、若干寂しげであった。 そして深々とただ上から降り積もる雪を見上げながら、その問いに答えた。 「ただあたしが信じてるのは自分と、自分が信じたいって思ったものだけだから。それだけだよ・・・。」 「・・・。」 ◆◆◆ 場所は変わり宿にて。を除く四人は、珍しく大部屋でないにも関わらず皆一つの部屋に集まっていた。 三蔵は机にかけて新聞を読んでおり、悟浄はソファーにごろんと横になり、悟空はベットの上で枕を抱きしめているという体勢だった。 唯一八戒だけは、お茶を入れるために備え付けの小さなキッチンで1人立っていた。 彼がお茶を入れ終わり、彼らの元にそれを持ってきた頃にタイミング良く悟空が口を開いた。 「なぁ、どう思った?」 「何がだ?」 「昼間が言ってたコトだよっ!!サンタクロースなんているわけないって・・・。」 「あぁ、別にいいんじゃねーのぉ?そんなん人それぞれだしよ。俺もどっちかってーと信じてねーほーだったし。」 「ちっげーよ!!俺が言いたいのはそういうコトじゃなくて!!」 「もしかして、が言っていた事を気にしてるんですか?”自分が信じてるのは自分と自分が信じたいと思ったものだけ”だと・・・。」 「うん、あの時のの悲しそうな顔がさっきからずっと頭から離れないんだ。がああ言ってた時、なんか俺すげぇ胸が痛かった。痛くて痛くて、あんな顔もうして欲しくないって思った。上手く言えねぇけど・・・・・。」 「悟空・・・・・。」 そう言うと悟空は枕をさらに強く抱きしめる。表情を曇らせ、下を向く様はとても彼らしいとは言えない。 その様子を見かねて八戒はしばらく考え込んでいたが、すぐ何かを思いついたようで声をあげた。 「ねぇ悟空、僕にいい考えがあるんです。僕ら全員でをはげます、というのはどうでしょうか?」 「はげます・・・?ってどうやって?」 「やだなぁ、そんなの決まってるしゃないですか♪」 「明日のクリスマスイブ、コスプレしての枕元へプレゼントを届けに行くんですよ。」 八戒のとんでもない発言に、悟浄は思わず飲んでいた茶を噴出し、三蔵は信じられないような表情で発言元の保父さんを睨み付けた。 「八戒、お前頭は正気か?冗談は休み休み言え。」 「おや、僕は冗談で言ったつもりは全然ないんですけど。あ、そうと決まったら準備をしないといけませんねー。サンタ服はレンタルで借りれる所を探すからいいとして、トナカイはさすがにないでしょうから作らないといけませんね。四人ですから、ちょうど二つずつ、腕が鳴りますね♪」 「待て八戒!!何を勝手に決めてやがる!!一体誰がそんなアホな事するってんだ!!」 「僕ら全員に決まってるじゃないですか。悟空の言う通りだと僕も思うんです、それに僕はサンタの事もそうですけど、の日頃の苦労もねぎらってあげたいんです。」 「苦労だぁ?あのバカ女が一体どんな苦労をしたってんだ?」 「それは一番迷惑をかけている人のセリフじゃありませんねー三蔵。だいたい、あなたがいつでもどこでも銃をぶっ放して宿の人に怒られた時も一体誰が謝ってあげてると思ってるんです?それにこの前三仏神のカードを紛失したときもが店で上手く働いてくれなかったら僕ら、今頃どうなっていたのか分かりませんよ?」 「何言ってんだ!!あの時はあのバカが結局客の態度に切れて暴れて・・・オイ悟浄!!テメェもなんとか言え!!」 「俺は賛成ー。クリスマスイブに襲い狼、ならぬ襲いトナカイになるなんて面白そうじゃねーの。」 「ははは、襲う前に襲われないといいですけどねー。」 「俺もさんせー!!が元気になるなら俺、なんでもやるよ!!」 「オイ貴様ら、勝手に俺を無視して盛り上がってんじゃねーよ!!!聞いてんのか!!」 「おや三蔵、もしかしてが怖いんですか?そういえば初めて彼女が僕らの前に現れた時、思いっ切り押し倒されてましたし。まぁ無理もありませんねぇ♪」 「!?八戒、俺を挑発しようなんざいい度胸じゃねーか・・・いいだろう、サンタにでも何でもなってやる、この俺に不可能はねぇ。」 「いやーそう言って貰えると助かります。さて、そうなると誰が何を着るか決めないといけませんね。いつも通り、カード勝負でいいですか?」 「ああ、今日で連続勝ち逃げ記録はストップしてもらうぜ八戒!!誰が勝っても恨みっこなしだからな!!」 「では、勝った二人がサンタ。ということでいいですね?さぁ、始めましょうか!!」 ―――こうして、一世一代の勝負の火蓋は、切って落とされた。 明日は、愛しい人への。 一年に一度の、クリスマスイブが来る――――――。 -To Be Continue・・・・・ ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――-――――――――――― あとがき スイマセン、あんまり長くなりそうだったので前編・後編と分けさせて頂きました。 初の試み!!クリスマスだからまぁいっかーってコトで♪(←馬に蹴られて死にたいか貴様/笑) クリスマスドリってコトで、特別相手は決めていません。全員相手にするのもいーかなーと。 これがホントの逆ハーレム!!!!!!(←もう何とでもほざけ/笑) サンタは信じていない、というヒロインに彼ら四人がどう動くのか。 書いてるこっちも楽しみです。うぉーん、後編が楽しみィ!!(←もはや書いてるヤツのセリフじゃねーし/笑) ――――後編へ。 ちなみにこちらが→製作秘話(笑) |