「ひゃーーーーーーっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!!」
「オイ、どーすんよこのオヤジ化した酔っ払いよ・・・」







EX 『優しい眠りを君に』











西へとジープを走らせ、旅を続ける三蔵一行が4日ぶりにたどり着いたのはある名もない小さな街。
だが小さな街ながら、偶然その日は年に一度の大祭の日であり、街には近隣の村からたくさんの人が押し寄せていた。
当然、その人の数に比例して数少ない村の宿屋もお客で溢れており、満室の宿屋の主人は喉を鳴らしたほど喜んだ。
そのため、一行は街に着いたもののなかなか休むことはできず、5件目にしてようやく大部屋が一部屋空いている格安の宿に入ることができた。



が、誰が言わずとも大部屋ということは全員が同じ部屋に押し込められ、また一晩同じ面子を見ることになる。
そのことに対して最初に不満を言い出だしたのが悟浄、そしてそれに対抗するように悟空が悟浄に意見し、ケンカを始めた二人に躊躇なく発砲する三蔵。
そしてそれに「毎度同じことやってよく飽きないわね、あんたたち・・・」と一行では唯一紅一点のが呟く。
そう、ここまではいつもとなんら変わりない日常の風景であった。



ただ、その日だけは唯一八戒がいなかったことを除けば・・・。


(コンコン)
「はい?」



騒いでいる三人をよそに、ノックされたドアをが開ける。そこに立っていたのはこの宿屋のおかみさんであった。



「あ、お嬢ちゃん。すまないね、こんな時間に。」
「おかみさん!どうしたんですか?何か御用ですか?」
「フフ、いいものを持ってきてあげたよ、今日はお祭りだからね!ホラ、みんなで飲みな!!」
「え?これお酒?しかもこんな上等なのどうして・・・」
「今日はこの村にとって一年で一番めでたい日なんだ。
で、それを祝って宿のお客さん全員にこうして酒を配っているというわけさ!よかったらあんたたちもこれで祝っとくれ!!」

「あ、あの!?ちょっと!?」


が言葉を最後まで言い終えるまでに、おかみはさっさとドアを閉めて出て行ってしまった。鼻歌を歌っているあの様子を見ると、かなり上機嫌らしい。
ボーゼンとが立ち尽くしていると、すぐ背後から悟空の元気な声が響いた。そして後ろには長身の三蔵、悟浄がの持っているものに目を向ける。
何貰ったの?・・・酒じゃん!!どうしたのコレ!?」
「何っ!?酒だと!?飲もうぜオイ!三蔵も一杯どーよ?」
「・・・上等な酒だな、悪くねえ。よこせ。」
「ちょっと待ってよ!!あんたたちだけで飲む気?
八戒が帰ってくるまで待とうよ、せっかく昼間の買出しで足りなかった分を買いに行ってくれてるのに!!」

「アイツの分はとっときゃいいだろ!こんな上等な酒目の前にして飲まねえわけにいかねえって!!あ、それとも何か?オマエ飲まねえつもりか?」
「あったりまえでしょ!!ワタシまだ未成年なんだよ!?そりゃ飲んだことくらいあるけどさ、お酒・・・」
「だったらいいだろうが!!何、もしかして自信ねーの?」
「なっっっっっ!?」
「あーあそういうことか。案外カワイイとこもあんじゃねーのよ♪」
「?どういうことだよ、悟浄?」
「酒の味も分からねえガキが、飲んでも旨くねえってことだ。」







最後の三蔵の「ガキ」の一言に、の表情が一気に変わった。
いつも冷静で落ち着いていて、とても18の女の子には見えない彼女が見せたその表情は、まるで鬼か阿修羅か・・・。
するとは、三蔵のほうを一瞬睨みつけ、そしてすぐ両手に持っている大瓶の酒を見つめながらこう言った。


「フッ、フフフフフフフ・・・このワタシをコケにしようとはいい度胸じゃないの・・・あんたたち。」
「え??何か、目ぇこえーよ・・・?」
「お望み通り飲んであげようじゃないの・・・全部ね!!!」
「何っ!?ちょっと待てってこのバカ!!!」
悟浄の言葉が止めるのも空しく、おかみが持ってきたなかなか飲めない上等な酒は、の一気飲みで一瞬にして消えた。その名も『必殺女殺し」・・・。



「ああああああああ!?ほとんど飲み干しやがったこのバカ女!!!」
「うっわー、すっげー飲みっぷり!!カッコイイ!!」
「そういう問題じゃねーだろうがこのバカ猿!!」


プハッ、とが声を発した。そして少し下を向いたかと思うと、突然狂ったように笑い出した。その彼女の変貌ぶりに、流石の三人も目を疑った。




「ひひひひひひひ・・・・ひゃーーーーーーーーひゃっひゃっひゃっひゃっ!」
「うわっ!?どうしたんだよ!?何かいつもと違う・・・」
「やっべー・・・俺知らねえ・・・」
「この状況を見て分からねえか猿、このバカ女の顔を見てみろ!!」
「だから一体なんなんだよ、・・・ったく、大丈夫か!?・・・?」



悟空が心配して下を向いている彼女の顔を覗き込もうと、肩を掴もうとしたその瞬間・・・・




「つっかまえたーーーーーーーーーーーおサルちゃん!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?な、なんだっ!?」



先にが勢いよく悟空に抱きつき、それに驚いた悟空は床におもいきり倒れこんだ。そしては彼の首にしっかりと腕を回し、顔を摺り寄せながらこう言った。




「お、おいほんとにどうしたんだよ!?いきなり抱きつくなんて・・・」
「んふふ・・・そんなつれないコト言わないでよ悟空ぅ!!・・・ねえ、前々から思ってたんだけど・・・悟空ってホントにカワイイ顔してるよねー!目もすごく大きくて金色で、ワタシと 同い年には思えなーーーーい!!! ・・・・食べちゃおうかな・・・」
「はぁっ!?何言ってんだよ!俺食べるの専門だから食っても旨くねえよ!?・・・うわっ!耳噛むなよ!?」
「やべぇ・・・マジでいっちまってるな・・・あっちの世界に・・・」
「だからガキに酒を飲ますのはもったいねえって言ってんだ!!まったく、付き合いきれん!!」
「三蔵、悟浄!!見てねえで助けろよ!!・・・って!!首筋だけはマジカンベン!!!」
「やめんかこのバカ女!!やるなら外でやれ外で!!これ以上ここでやるならマジで殺すぞ!!」
「ってそういう問題じゃねーだろうがよ三蔵!!」







するとまたしても三蔵の言葉に反応したのか、はたまたカンに触ったのか・・・
は悟空に絡ませていた腕をスッと離し、後ろで傍観を決め込んでいた三蔵の前まで詰め寄った。
離れたに悟空は安堵し、悟浄は大笑いしたいのを必死で口で抑えてこらえている。

もしここで声を出して笑えば、確実に三蔵の銃の被害を受けるからだ。
がまたしても三蔵をまっすぐ睨みつけながら、少し声を低くしてこう言った。



「殺す・・・?誰が誰を殺すって・・・?まさかワタシのことじゃないでしょうねぇ、三蔵サマ?」
「オマエ以外に誰がいるんだこの淫乱女。殺されたくなかったらこれ以上騒ぐんじゃねえよ。」
「へーぇいいのかしらそんなコト言って・・・あ、もしかして三蔵妬いてんの?ワタシと悟空がラブラブだから妬いてんだーそうなんだー!!!」
「!?・・・なにを言っている貴様・・・マジで殺されたいらしいな・・・」
「やれるもんならやってみれば?そのかわり、こっちもただじゃやられないけど。・・・それより、ちょーっと失礼!」
「!?!?!?ばっ、どこを触っているこの変態女!!やめんか!!手を離せ!!!!」
「まーーーーーえから気になってたのよねぇ、このわけのわからない黒いタンクトップみたいなシャツみたいなやつ。
どういう構造になってんの?見せなさいよーー!!」

「見せるわけねぇだろうが!!やめろ!!服が破れる!!」
「フフフ、良いではないか良いではないか♪」
「マジかよ・・・シャレにならねえ・・・オイ悟空、加勢すっぞ!!・・・悟空?」
「んーっと・・・今のみたいなやつってなんていうんだっけ?・・・あ、分かった『バカ殿』だー!!」
「ってかこれはただのオヤジ化した酔っ払いだな・・・これじゃどっちが男で女か分かりゃしねえよ。ホントはコイツら性別逆なんじゃねーの?」
「ぎゃはははははは!!いえてらー!!」
「貴様ら・・・・殺す!!このバカ女と一緒にまとめて殺す!!!!」







いつのまにかが三蔵を押し倒した体制になっており、必死に三蔵は脱がされそうになっているシャツを抑えながら銃を他の二人に向けている。
それをなんとか回避しようと、二人が少しぐらついたその瞬間・・・










「ただいまー!いやー、外はお祭りでものすごい人でしたよ、買い物するにも一苦労で・・・って何ですかこの状況は?」





八戒が買い物から帰ってきたのだ。部屋に入るなり目にしたそのありえない光景に、おもわず彼は一瞬目を丸くする。
が、そこは彼だ、の側に転がっている酒の大瓶を見て、だいたいは理解したようだ。
「僕のいないうちにに何をしたんです、悟浄?」とでも言うように彼の方に冷たい視線と空気を八戒は向けた。
悟浄は、「ヤベ・・・マズイ。」という顔をして彼から目を背けた。

そんな気まずい空気をもろともせず、完全に酔いつぶれたが満面の笑みを浮かべて買い物袋を両手に抱えた八戒に話しかけた。



「あ、八戒おかえりなさいーーーー!!買い物ありがとうね、あんまり遅いから心配しちゃった!!」
「おや、、ただいま。なんだか随分とゴキゲンですねぇ、もしかして、酔ってるんですか?」
「正解だ八戒!!何でもいいから今すぐこのバカ女をなんとかしろ!!俺の服が破ける!!」
「むーぅ、何よう、三蔵のハゲ坊主!!いーもん、八戒にかまってもらうからぁ、ねー八戒♪」
「おやおや、これはこれはかなりお酒が回ってますね。で、どういうことなのか説明して頂けますか。三人とも?」



八戒が冷たい視線を三人に向ける。彼が黒いオーラをまとって静かに怒っているのは明白であった。
各々言い訳を考えた三人だったが、実際に酒を薦めて飲ませてしまったのは自分達なのだ。
部屋の中を気まずい空気が漂う中、またもそれを破ったのは渦中の人物のであった。
すぐに三蔵から離れ、八戒のほうに駆け寄った彼女は声を小さくして彼にこう呟いた。






「・・・ねぇ、八戒、ワタシなんか疲れちゃって・・・眠い・・・もう寝てもいい?」
「おや、もうオネムなんですか?仕方ないですねー、聞きました?みなさん?
お姫様は眠りにつきたいそうなんで、申し訳ないですが部屋から出て行って頂けますか?」

「なっ!?何言ってんだ、全員同じ部屋なんだぜ!!出て行くも何も・・・」
「王子様は僕1人で十分なんで、悪いオオカミが三匹もいるとが眠れないじゃないですか。」
「八戒、オオ・・・カミ・・なの?」
、僕をこの人たちと一緒にしないでください。僕はあなたを守るナイトなんですから。今晩はずっと側でついててあげますよ♪」
「だーーーーもう!!わーったよ、出ていきゃいーんだろうが!!」
が眠れないなら外行くよ、あ、外祭やってんだよな!!三蔵、食いモン買ってよー焼きそば、たこ焼き、わたあめー♪」
「やかましいサル!!こんな時間にギャーギャーわめくんじゃねぇ!!」
「オメーの声が一番うるせえよ、三蔵・・・」



最後の悟浄が部屋のドアを閉め、三人は出て行った。
二人きりになった八戒とであったが、が完全に酒によってまわった眠気に負けており、彼女は八戒の肩にもたれて今にも眠りそうになっていた。
そんな彼女を八戒はしっかりと優しく受け止め、声を小さくして彼女の耳元で囁いた。




、こんなところで寝たら風邪をひきますよ。ほら、ちゃんとベットで眠ってください。」
「・・・うーん・・・別に風邪なんか・・引いても、いい・・」
「あなたに引かれたら僕が困るんですよ。・・・全く、仕方のないお姫様ですね。」




すると八戒はなるべく彼女を起こさないよう優しく抱きかかえ、ベットへと運んだ。その様はまるで『お姫様抱っこ』・・・。








ベットに運ばれると、は完全に眠ってしまった。
よっぽど疲れていたこともあるのだろうか、女の子らしい寝息を立てて眠っている。そんな彼女の寝顔を見ながら、八戒は呟いた。




「全く、まさかこんな乱れたあなたが見られるとは思ってませんでしたよ。意外でしたね、ここまでお酒に弱いとは。」


普段は宿でもジープでも、そして戦闘中でも冷静沈着、とても18の年相応の女の子には見えないが、今夜は無防備な姿をさらけ出している。
八戒はとても複雑な心境だった。

もしかしたら、これが彼女の本当の姿かもしれないと思ったから。
は目的達成のため旅をする自分達の前に現れ、そしてその目的のために一緒に旅をすることになったのだが、いつも彼らとは明らかに一線を引いていた。
笑ってはいても、いつもどこか寂しそうで、悲しそうで、泣いているようで・・・それは彼女の過去に、何かあったからなのだと踏んではいたが。



無理をして、虚勢を張っていたのだ。自分が弱いことを悟られない為に、たった18の女の子が・・・。
だったらせめて、今夜だけは側についててやりたい、今夜だけは優しい眠りを約束してやりたい、八戒はそう思ったのだ。
そして彼の中に、本人も気がつかないうちにある感情が芽生え始めていた。を、愛しいという感情が・・・。
それに気がついたのか気がついていないのか、それは定かではないが、彼は彼女の手を優しく握り、そしてこう呟いた。



「情けないですね、僕、今酷く嫉妬してるんですよ・・・あなたがこんな乱れた姿を、最初にさらけだしたのが僕じゃなかったことが悔しくて・・・。これからは僕だけに見せてもらいますよ、乱れて、乱れて、乱れて、乱れまくったあなたを僕だけに・・・ね。」


そう言うと、八戒も連日の運転続きで疲れていたのか、そのままのそばで眠ってしまった。彼女のそばで彼もまた、優しい眠りにつきながら・・・。











「なーぁ三蔵!!なんでそんなに機嫌わりーんだよ!?あ、いつものことか・・・」
(スパーァァァァァァン!)


そして追い出された三人は、というと、人ごみでごったがえす祭の中にいた。
祭を満喫しているのか・・・と思いきや、楽しんでるのは両手に祭りで買った食べ物を抱えて口に運んでいる悟空だけで、
あとの二人は他の人間を寄せ付けない雰囲気で不機嫌そうに歩いている。それに突っ込んだ悟空が、三蔵のハリセンの餌食となった。





「・・・いってーーーーーぇな!!何すんだよ三蔵!!」
「やかましい黙れサル!!貴様に俺の機嫌をどうこう言う資格はねえな!!サルはおとなしく食ってろ!!」
「だってほんとに悪いじゃんーーー・・・あ!?またまた食いモン発見!!オジサン、これ15個ちょうだい!!」
「って人の話は最後まで聞け!聞いてんのかサル!!」
「アイツに食い物の前で話すんのはこの世で一番無駄なコトだって、三蔵サマよ。
・・・んで、マジ機嫌わりいじゃん?なんとなく分かるけどな。俺もそれでむしゃくしゃしてっから。」
「一体何のことだゴキブリ河童。」
「まぁ、そう言うなって。のことだろ?まさかアイツが酒一つであそこまで乱れやがるとはな、驚いたぜ。
八戒が帰ってこなかったら俺が介抱してやろうと思ったのによ・・・今回は八戒にしてやられたな、もまんざらじゃなかったみてえだしよ。・・・ちょっと割り込むのは無理かもしんねえわ・・・」
「フン、貴様にしてはめずらしく弱気じゃねえか、悟浄。」



美しく浮かぶ三日月をタバコをふかしながら、三蔵が見上げる。その様に悟浄は一瞬目を奪われた。そして、目の前の最高僧はこう言った。










「”GAMEは最後までわからねえ”、そう言ったのはどこの河童だ?勝負はまだまだこれからなんだよ。」









-Fin-


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とがき

いやー懐かしいですなぁ。(←遠い目)
実はコレ、一番最初に書いたドリームだったりします。ある方々へのお礼で無理矢理送りつけた一品(笑)
一番最初に書いたのが八戒ドリとは・・・三蔵ファンのワシがよくやったよ、自分を褒めたい。(←自我自讃)

が、今改めて読むとハズカシーーーーーーーーーーーーーー!!(滝汗)
中途半端に甘っちょろいのがイヤだ!!ラブならもっとラブラブ書けよ何やってんだーーーー!!(←褒めるんじゃなかったのか・・・)
畜生・・・しかも何だよ「女殺し」って・・・ネーミングセンスのかけらもねぇのがバレバレ(笑)
ヒロインが酔っ払ったらどうなるか、ちょっと書いてみたかったというだけのモノでゴザイマス♪

♪今回のBGM・・・なんだったっけ?(←還れ、笑)
おそらく八戒がオオカミってことで(なってねぇ、笑)ポルノグラフィティの「狼」なんでしょうが・・・。
ホントはDEENの「Crazy for you」なんですがね・・・(笑)