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――――雨が僕らを、弱くする。 EX『Rhapsody with rain』 「暇~~~・・・・・・・。」 なんともだらけたやる気のない声を発して、ダブルの部屋に備え付けられた小さなソファーで体勢を崩して稜がくつろぐ。 くつろぐというよりも、これは明らかに”やる気ゼロ”といった風体だ。 彼女がそうなるのも無理はない。外は雨、部屋には二つのシングルサイズのベットとソファー、そして薄めのカーテンしかない。 TVもラジオもなく、何よりキッチンも備え付けられていない。これでは彼女が得意の料理の腕を振るうことも敵わない。 しかも極めつけは、相部屋になった人物が三蔵だということだ。 悟空達と別れて部屋に入ってから、何の会話もなくただ無言に過ごしている。外はあいにくの天気で、かなり雨が降っており買い物にも行けない。 雷が落ちそうなほど雲行きは怪しく、さすがの自分でもこんな天気の中出て行ったらヤバイという事ぐらい分かる。 買い物にも行けず、する事もなく、退屈すぎる時間を稜は部屋で過ごしていた。 同じ時間をイヤでも共有することになった三蔵に視線を向けると、彼も何をするわけでもなくただ外を眺めている。 それとも、雨が降っているから外を見ているのか・・・・・。 「ねぇ三蔵~~~。」 「・・・・・。」 話しかけても無言。こちらを見ようともしない。 そんな窓際のベットの上の金髪の最高僧を見ながら、稜は部屋に入る直前に悟空に言われた事を思い出していた。 ◆◆◆ 「稜、大丈夫?」 「大丈夫って、何が??」 「その・・・三蔵と二人部屋でさ。知ってると思うけど三蔵雨の日、スゲェ機嫌悪ィから・・・俺やっぱ変わろうか?稜は悟浄達と・・・」 「なーに言ってんの、さっきクジ引きで決めたんでしょ。”誰と誰が一緒の部屋でも恨みっこなし”ってさ。それとも何、せっかく八戒が作ったクジ、無駄にする気??」 「でもさぁ!!」 「いいから、今日はゆっくり休もう。心配しないで、あたしを誰だと思ってんの?」 「ま、もし万が一危ねぇ事になったら声出せよ。艶っぽい悲鳴上げたらすぐに駆けつけっからさ。」 「あ、それはないない。どう考えたってアンタの半径3メートル以内より雨の日の三蔵の半径50センチ以内の方が安全区域だし。」 「ハハハ、それは僕も同感ですね~。」 「・・・おめえらよ・・・」 ◆◆◆ とは言ったものの、この空気にはさすがに息が詰まる。する事がないのなら話すくらいしかないのだから。 だがそれも敵わないようだ。三蔵は無言・表情一つ変えずただ降り続く雨を眺めている。 一体何を考えているのか。 我慢も限界に達したのか、とうとうしびれを切らした稜は窓際の方向に向かい、三蔵に近づいて口を開いた。 「ね、三蔵、する事ないんだからカードでもやんない?いっつもポーカーとかばっかだからたまには違うゲームでもさ。あたし色々知ってるから教えてあげてもい・・・・・」 三蔵の肩に触れようとしたその時、稜の額を金属の生々しい感触が立ち塞がった。 三蔵の愛用の銃が、彼女の頭に向けられている。しかも三蔵の指は今にもトリガーを引きそうである。 銃を額に向けられたままの体勢で、少し驚いた稜が落ち着いた口調で話した。 「・・・・・あたし何かしたかなぁ?銃を向けられるような事をした覚えはこれっぽっちもないんだけど?」 「覚えはねぇ、だぁ・・・お前、サルから何も聞いてないのか?雨の日の俺に近づくって事事態が間違ってんだよ。 命が欲しいなら俺に構うな、もっとも、死にたいのなら話は別だがな。」 「フーン、何を黄昏ちゃってるのか知らないけどさ、ま、あたしには関係のない話だからねー。・・・昔何があったのかは知らないけど、だからってあたしや悟空にまで当たらないでくれる?黄昏るならテメェで勝手にやってりゃいいでしょーが。それとも何?誰かに当たりでもしないと”最高僧”なんて務まんないってワケ??」 「・・・・・どうやら本気で死にてぇらしいな、クソ女・・・ガキだからって容赦しねーぞ。」 「やれるモンなら?」 銃を向けられたままの体勢で、普通の人間が聞いたら卒倒しそうな程恐ろしい会話が繰り広げられた。 稜も三蔵も表情を変えずに会話するから、それがまた恐ろしい、この二人。 その会話の後、しばらく会話と同じく不穏な空気が部屋全体に流れたが、またしても先に稜が口を開いた。 どうやらずっと同じ体勢で居たので、ギブアップしたようだ。 「―――あーもうやめたやめたっ!!ここでアンタと睨み合いしてたって面白くも何ともないし!!ただ疲れるだけじゃん!!やめやめ!!」 「フン、貴様が先に吹っ掛けて来たんだろうが。いいから俺に構うんじゃねぇ、今度近づきでもしたらマジで殺すぞ。」 「アンタねぇ・・・一体そのセリフ一日に何回言ってんのよ。そういう言葉はホントに殺す気がある時だけ使えってのよ。」 「ウルせぇ・・・。」 その言葉を最後に、二人の会話、ならぬ睨み合いは幕を閉じた。 稜もカード、というか三蔵に話しかける事自体を諦めたのか、そのまま隣のベットへ向かった。 部屋の時計を見るとすでに夜もいい時間である。このまま眠ってしまうのは不本意であったが、稜は眠る事にした。 となりの三蔵には目も向けずに、ベットに入るとすぐに瞳を閉じた。 ◆◆◆ どのくらいの時間が過ぎたのだろう。外の雨音はさらにいっそう強さを増している。 その音を聞きながら稜は目を覚まし、少し体を起しながら思った。 (雨、スゴ・・・こりゃ明日も雨かな・・・。) そして窓際にふと目をやると、その目に入ったのは先ほどと全く同じ体勢で外を眺めている三蔵の姿であった。 ベットにいるからといって眠るわけでもなく、ただ座って外を見つめている。 さすがにそれには稜も驚き、うつろな眼で話し始めた。 「ちょっ・・・まだ起きてんの!?今何時だと思ってんの!!いいかげん寝ないと体に・・・ってあたしには関係ないんだったか。ねぇ、何見てんの?ずーーーっと雨なんか見てて飽きない?あたしなら10秒もしないうちに飽きるんだけど。」 「・・・貴様には関係ねぇよ、いいからとっとと寝ちまえ。」 「はーいはい、仰る通りよ三蔵サマ。ねぇ、何をそんなに気にしてんの?ってかアンタ、ホントは雨なんか見てないでしょう?」 「何をほざきやがる、テメェはバカか。この風景の中、雨以外の何があるってんだ。」 「そーじゃなくて。確かに目にはうっとーしいぐらいの雨しか見えないけど、アンタにはその向こうに何か見えてるんじゃない?例えば・・・過去の忌まわしい惨劇、とかね。」 「・・・・・・。」 「当たり?うーん、一番可能性のあるものを言ってみたんだけど。そっか・・・雨の日か・・・。」 三蔵のベットを避けて、稜が窓際に近づいた。その稜の行動に警戒するように三蔵は枕元の銃を手にしかけたが、再びそれを彼女に向けはしなかった。 稜は窓の外を見つめながら、坦々とした口調で話す。うつろであった瞳を大きく開いて、その蒼とも藍とも言える色を輝かせた。 「雨の日だったんだね、大切な人を亡くしたその日が。違う?」 「・・・・・。」 「だんまりって事は肯定って事で解釈してもいいよね。三蔵には”雨”がその人を奪ったように見えるんだ、これも当たりでしょ?」 「今日はやけに饒舌じゃねぇか。サルにつられて何か悪ィモンでも食ったんじゃねぇだろうな?」 「・・・・・・アンタがらしくないからだよ、三蔵。」 普段は滅多に他人の詮索などしない稜が、珍しく絡んでくる。三蔵はそれも感じていた。 薄明かりの部屋の中で、二つの影だけがただ、重なりそうで重ならない。知らない人間が見たらもどかしくなりそうだ。 雨音はさらに強さを増し、二人の声どころか存在さえかき消してしまいそうな程だ。 その音に屈する事なく、稜が目の前の最高僧に説く。今度はまっすぐに紫暗の瞳を見つめて。 「ねぇ三蔵。一体この雨に何を見てるの?アンタは何を感じてるの?」 「黙れ・・・貴様には関係のねぇ事だ。」 「そうやって、目の前の”雨”から逃げるつもり?でもこの世界に生きている限り、雨はずっとアンタを追いかけてくるよ。それでもまだ逃げ続けるの?」 「逃げる・・・だと・・・」 「雨の日になると不機嫌になって仲間にやつ当たる。コレのどこが逃げてないっての?あたしはまだ大事なモノを失ってないからアンタの気持ちは理解できない。でもこれだけは言えるよ、誰もが大事なモノを失う事が怖いんだって・・・・たとえ三蔵法師でもね」 「・・・・・。」 「何にも不自然な事じゃないんだよ三蔵。むしろごく自然な事なんだ、でも頼むから・・・雨なんかから逃げないで。まっすぐ”前”を見て。そしたらきっと、見えなかった”何か”が見えてくるハズだよ。少なくとも今のあたしには・・・三蔵、貴方が見えてる。」 「お前・・・・・。」 ―――なんと美しい藍色だろうか。薄暗闇の中でもはっきり識別できる程の、美しさがそこにあった。 しばらく稜の瞳に酔いしれた三蔵であったが、すぐさま目の前の少女が我に還った。 ばつが悪そうに下を少しうつむきながら、先ほどよりも声を抑えて言葉を発した。 「なーんてね、何を偉そうに言ってんだかあたしは。アンタの言うようになんか今日は饒舌みたい、ちょっと外出て頭冷やして来るね。」 「・・・・・あぁ。」 そう言って稜は扉を閉めた。少女が出て行く様をただ三蔵は止めるわけでもなく、そう返事をするだけであった。 「―――――俺は、逃げてねぇ・・・・・・」 だが稜が出て行ってすぐ、三蔵はある事に気が付いた。 ”外に出て頭を冷やしてくる”―――たしかにアイツはそう言った。 ―――――ちょっと待て、雨!? 「まさかっ・・・!!」 すると三蔵は、すぐ傍の窓を雨が部屋の中に入るのもためらわず開けた。 そこで彼の紫暗の瞳が映したものはなんと・・・。 ―――――予感的中。 この大雨の中、なりふり構わず濡れる事も気にせず、ただ少し上を向いて稜が空からの”それ”にうたれている姿だった。 せっかくキレイにととのえられていた肩より長いストレートヘアは当然濡れ、着ていた薄めの部屋着もびしょぬれ。その中に着ていた赤のキャミソールも透けてしまっている。 その事を全く考えていないのか考えているのかどうかは定かではないが、彼女の表情を見て一つ確実に言えることがある。 ―――なんて楽しそうな表情してやがんだ、アイツは。 三蔵の視線に気が付いたのか、稜が少し瞳を開いて二階を見上げた。 「あ、さーんぞっ、やっほー!!」 「やっほーじゃねぇ!!何考えてやがんだテメェは!!とっとと中に入れ!!」 「さっき言ったでしょ?”外で頭を冷やす”って!!ね、三蔵もおいでよ!!気持ちいいよー雨!!」 「んなワケねぇだろうが!!冗談言ってねぇで早く・・・。」 「あ、それとも”逃げてる”からここまで来られないんだ?やっぱ腰抜け坊主には二階がお似合いって事かなぁ??」 「っつ!?テメェ・・・待ってろ!!今すぐそっちに行ってやる!!」 すると三蔵は部屋の窓を閉めもせず、そう言うとすぐに外へ向かった。 外に出ると、部屋の中から見るよりも雨は強く、さすがの三蔵でも外に出るのをためらった。 だがその大雨の中ではっきりと見えたのは、またしても稜の姿。 しかも今度は体を少し揺らし、何か唄っている。降り続く雨などお構いなしに。片足のつま先をトントンと鳴らしながら、リズムをとっているようだ。 そしてすぐさま三蔵の方を振り返り、こう告げた。 「ねぇ三蔵、一ついいこと教えてあげよっか!!雨が降るってことはね、それだけこの世界が安定してるって事なんだよ!!あたしの世界じゃ雨が災害を引き起こすって事もたまにあるけど、でも雨が降らなきゃ生きていけない生物だっているでしょ?色んな生物がいると思うけど・・・あたしも雨がなきゃ生きていけない!!だって、それがなきゃこんな風に雨にうたれて唄えないから!!」 「何言ってんだテメェ!!当たり前な事ほざいてんじゃねぇよ!!」 「まぁそうなんだけどね。でもホントの事でしょ?・・・あたしね、昔っから雨の中で唄うの、大好きだったんだ!!小さい頃は理由なんて全然考えてなかったけど、今なら分かる気がする・・・誰も見てないけど、でも誰かが見てるような気持ちのいい気分になれるしね!!」 「結局何が言いてぇんだバカ女!!いいから中に早く入りやがれ!!」 「ヤダ、だってここで唄ってると”空”があたしの唄を聴いてくれてるみたいな気がするから!!拍手も喝采も何にもないけど、ここは”あたしだけのステージ”なんだ!!」 「―――なんだと・・・。」 「人前で唄うのってあんまり得意じゃないけど、あたし今ものすごく唄いたくってウズウズしてる。よっし、出血大サービスで一名様に特別披露しちゃうよ!!」 そう言うと再びリズムを取り出し、今度はステップを踏み始めた。空を仰いでメロディーを口ずさむ。 そして美しい歌声で、稜は少しずつ音量を上げながら唄い始める。 「♪♪Lala,lala,lalala,lalalalala・・・・・・・」 雨の中の稜の”姿”を瞳に映して、三蔵は思った。 ―――相変わらず楽しそうに歌いやがって。 先ほどよりも雨は若干強さを増しており、それに加えて風も吹いてきた。 肌に染み込んでくる雨は冷たい。風が吹く事で温度が下がってきているのだろうか。 だが不思議だ。稜の歌声とその姿が、三蔵の胸を、全身を熱くさせる。 いつの間にか目が離せなくなっている自分が居た。最高僧である自分を、ここまで振り回しまっすぐに想いをぶつけてくるこの少女。 戦闘となると普段は獣みたいに戦う稜が、この一瞬だけはそれとは全く違う”何か”に見えた。 ―――何だ、コイツは。 ひらひらと体をひるがえして唄う様は、まるで蝶が舞っているようにも・・・・・。 「―――――アゲハ蝶―――。」 「え??何か言った??」 三蔵の言葉に反応したのか、稜は途中で動きを止めた。 すると三蔵は雨に濡れることも構わず、稜のそばへ近寄って蒼の瞳を見つめた。 「何・・・・・?今なんて言ったのか聞こえなかったんだけど。」 「・・・・・・。」 「ねぇ三蔵!!」 「・・・クックックックックックッ・・・。」 「!?ちょっ、三蔵ってば!!もしかして、笑ってる??」 「コレが笑ってる以外の何かに見えるのかお前は、やはりバカだな。バカコンビと同類なんじゃねぇの。」 「バカコンビ、ってアイツら二人と一緒にしないでよ!!一体あたしのドコがバカだって・・・」 「フン、そんな格好を平気で男に見せるヤツのドコがバカじゃねーってんだ。」 「え?・・・・・―――!?ゲッ!!ちょっ、やだっ!!」 雨で下着が透けてしまっている事にやっと気がついた稜は、思わず両腕で体を隠して下に身をすくめた。 少し顔を赤らめている表情が、三蔵にはたまらなくいとおしく見える。 彼女のその様子を見て、三蔵はこう告げた。 「お前の言う通り、俺は逃げていたのかもしれない。雨の日は、俺の大事なモノを奪っていった。奪われたモノはもう二度と、俺の所へは帰ってこねぇ。だから俺はきっと、これからもずっと雨の日が苦手だろう。人の心は、そう簡単には変わりゃしねぇ。」 「うん―――――分かってる。」 「だが、今夜のお前が見せてくれた蝶のような”幻”なら、俺は何度でも、いつまでだって見ていてぇ。」 「!?三蔵・・・・・。」 目の前の最高僧の言葉に、稜は思わず瞳を大きくさせた。 とても驚いた様子で彼の顔をマジマジと見つめる。 その紫暗の瞳をじっと見つめた後、今度は稜が三蔵にこう告げた。 「幻なんかじゃないよ、三蔵。あたしは幻なんかじゃない、だって今ここにこうして生きてるんだもん。幻は消えちゃうでしょ?ホラ、体だってちゃんと・・・」 言葉を最後まで言い終わるまでに、三蔵の腕が稜を強く自身の胸の中に引き寄せた。 そして、こう彼女の耳元でこう囁く。 「あぁ、たとえお前が蝶でも・・・消えるなよ。俺の目の前から、この世界から。」 「っ・・・三蔵・・・・・うん。」 夜の雨の中、やっと二つの影が重なった。重なりそうで重ならなかったその、二つの影が。 一晩降り続いた雨がやっと止む頃は、彼の心の雨も止む頃。 君がいるだけで、すべてが表情を変える。 何もかもが、自分の心までもが。 ”アゲハ蝶”が、旅立つ頃にもきっと―――――。 -Fin- ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――-――――――――― あとがき 長い事大変お待たせいたしましたひじき様!!もう、何ヶ月かかって書いてんだテメェ、と突っ込んでくださって結構です。 実はコレにはふかーーーいワケ(笑)がありましてねぇ・・・ホントは別にいくつか話書いてたんです。 んでも上手くまとまらず、だったら色々書いてやろうじゃないか!!とチャレンジした結果がコレです。 ”いつもと違う三蔵” ”甘々”というリクだったのですが、達成されている確立は20%ですな。(→オイオイオイオイオイ!!/笑) ♪そしてBGM!!随分前にひじき様がポルノグラフィティ(特にアゲハ蝶)がお好きだと仰っていたので、何度も何度もイメージ固める為に聞きまくりました。長い事聞いてなかったので完全に忘れておりまして苦労しました(笑) ヒロインが唄う様を”アゲハ蝶”に見立ててみたのですが、全然偽者ジャァ~~~ン??(→ナゼ疑問系・・・) んでも、私もこの歌大好きなんで聞いてて飽きなかったです。むしろノリノリ!! やっぱ、ポルノは色々たまらんですねー。(→超親父的発言/笑) |