天気は気持ちの良い快晴。
雲ひとつない、ある晴れた日の午後。
宿の部屋の一室で、皆がいない間を見はからってゆっくりと一行の洗濯物をたたんでいるのは八戒。
机の上にはたたまれた山積みの洗濯物。かなりの量だが手馴れた手つきでたたんでいく。
その近くには洗っていつでも使えるように置いてある灰皿がある。どうやら喫煙者と相部屋であるのは間違いない。
隣には気持ち良さそうに寝息を立てたジープが眠っている。
そんなジープを見て、八戒はフッと微笑んだ。



「今日も平和ですねぇー。」



が、その平和は次の瞬間もろくも崩れ去った。






EX 『恋愛遊戯。』








「八戒!!八戒いる!?」



女性とは到底思えない程乱暴にドアを開けたのは、一行で唯一紅一点である
だが八戒は、まるでなかったかのように落ち着いて対応した。どうやらこんなことは日常茶飯事、慣れっこなのだろう。


洗濯物をちょうど良い所で切り上げると、ゆっくりと微笑みながら視線をドアの前の少女の前にやった。



「おや、。随分と早い買い物でしたね。もっとゆっくりしてきても良かったんですよ?」
「・・・何でよ・・・」
・・・?」
「何でッ、何でよ八戒!!」



すると次の瞬間、胸ぐらをつかまれたと思ったら勢いよく八戒の体は床へと倒れ込んだ。
八戒がきちんとたたんで、そばに置かれていた洗濯物は見るも無残に崩壊しており、倒れこんできた八戒の下になってしまっている。
だがはそんな事は気にもとめずに八戒に食いついた。



「何で・・・何で教えてくれなかったのよ八戒!!」
「ちょっと、ちょっと待って!!待ってください!!どうしたんですか一体、落ち着いて!!何の事ですか??」
「とぼけないでよもう!!分かってたクセに絶対!!何で昨日がバレンタインだって事、一言でも言ってくれなかったの!?」



八戒は思わず目を丸くした。彼女からバレンタインという言葉が出るとは思ってもいなかったからだ。
八戒が洗濯物を敷いて下、その彼を押し倒した体勢でむろんが上、という光景のその部屋のドアを、次に訪れた人物が開けた。





「お前ら、なーにやってんだ、そんなカッコで。もしかして俺、ジャマしちゃったか??」



隣の部屋でヒマを持て余していた悟浄であった。

普段めったに見られないであろうその組み合わせの体勢に、彼はニヤニヤと口元に笑みを浮かべた。
悟浄の顔を見て、はぞっと体を身震いさせた。



「なっ、何よ悟浄、ニヤニヤして気持ち悪いっ!!」
「いーや悪ィ悪ィ、ついつい、な。そーかそーか、お前らいつの間にそういう関係だったワケか。そりゃ八戒とデキてんじゃーなぁ、この俺が無敵のフェロモン攻撃で攻めても落ちないワケだ。なぁ??」
「なっ・・・!?」



悟浄の言葉には驚愕と共に顔を赤らめた。
もちろんと八戒がデキているなどあるハズもないことは分かりきっているのだが、自分の言葉一つでこうも反応が変わるとなると面白くてたまらない。それは八戒も悟浄に同意見であった。


ニヤニヤとした笑みを浮かべる悟浄に、ついつい手が出そうになったであったが、そこはどうにかこらえた。
傍から見てもからかわれていることぐらいは一目瞭然なのだが、あいにくからかわれている方にはそんな事は考えられない。

薄っすらとこめかみに怒りを表しながら、悟浄に言葉を返した。



「何であたしと八戒ができてる事になんのよ!?あたしは八戒に話があって・・・」
「おや、僕はてっきり貴女とは”そういう関係”なのだと思っていたんですが・・・そうですか、僕との事は遊びだったんですね。」
「ハァ!?ちょっと、何言い出すのよ八戒!?」
「でも僕は本気でした・・・真剣に将来の事も考えていたんですよ。子供は二人、男の子と女の子1人ずつで、貴女そっくりのカワイイ双子で。白い大きな家で暮らすのが夢でした・・・・・。」
「ちょっとっ!!何勝手に人の将来設計してんのよアンタは!!」
「コイツの子供がカワイイわけねーだろ。顔だけはいいかもしんねーけどよ、性格はぜってー最悪だぜ、きっと。
ま、俺との子供なら父親がしっかりしつけてやっけどさ、なぁー?」
「アンタも何乗ってんのよ悟浄・・・何でバレンタインの話からこうも話が飛躍するワケ!?あたしはねぇっ、ただせっかくの
バレンタインだしあの生臭坊主に何か・・・・・」





勢いですべて言葉を吐き出し終わる前に、我に還ったは思わず口を押さえた。言う筈もなかった事まで言ってしまった事に気がついておそるおそる視線を悟浄にやる。すると、彼から意外な反応が返って来た。



「何、オマエあんなボーズが好みだったのか!?悪いのはマジで性格だけにしとけって、男の好みまで最悪だったらホントにシャレんなんねーぞ?」
「大きなお世話だし大きな勘違いだってーのよこのバカ!!あたしはねぇっ、あたしはただ、その・・・いつも何だかんだ言って色々助けて貰ってるし。口ではああ言うけど、肝心な時に三蔵は一番欲しい言葉をくれるから、だからあたしも何か、少しでも三蔵にあげられたらいいなって思っただけだよ。―――別にっ、バレンタインじゃなくても良かったんだけど、ただそういう口実が欲しいから―――。」
・・・そういう事だったんですか。スミマセン、僕もてっきり昨日がバレンタインだという事を忘れていたので。」
「ねぇ八戒、教えて欲しいの!!三蔵の欲しいモノって何だと思う??ホラ、どー考えたってあの鬼畜坊主がチョコレートを欲しがるとは思えないし、あげたらあげたで”こんな甘ったるいモンが食えるか”とか言いそうだし。大福とかは嫌いじゃないみたいなんだけど・・・。」
「だな、茶ぁよくすすってやがるしよ、爺クセーったらありゃしねぇ。」
「でもそんなものじゃ、そういう”気持ち”とか絶対伝わらないだろうし。どうしたらいいのか全然分からなくて・・・。」



そう言うとは顔を曇らせて下にしゃがみ込んだ。するとそのまま両腕で顔を隠し、呟いた。





「あーーーもぅあの坊主は!!何が欲しいのよぅ、三蔵―――。」



そう呟くを目の前にして、悟浄と八戒は思わず視線を合わせる。片方が頷くと、もう片方も頷いた。

下にしゃがんでいたに合わせてしゃがみ込んだ八戒は、彼女の耳元でこう囁く。
色気のある耳によく馴染む声が、の脳内に届いた。



「ねぇ、僕はなんだっていいと思います。貴女から貰えるモノなら誰だって喜んで受け取りますよ。」
「でも相手はあの三蔵だよ?そう簡単にいくワケ―――」
「そうですね、僕が三蔵なら―――やはり”貴女まるごと”でしょうかvv」
「―――は??」



八戒が耳元で囁いたと思ったらすぐに悟浄の腕がの腕を掴み、上へと強く引き寄せられた。
突然の強引な悟浄の行為に、彼の腕の中でが言わずもがな反論する。
すると悟浄がククッ、と喉で笑ったのを、は聞き逃さなかった。



「ちょっと何ッ、やだ悟浄!!何すんのよイキナリ!!バカやめろっ、離せっ!!」
「バカはオマエだろーが、いいから落ち着けって。八戒が言ったこと、聞こえなかったワケじゃねーだろ??あんな耳元で囁かれちゃあなぁ〜妬くぞコラ。」
「何の事よっ!?離さないとホントに刺すよ!!」
「要するにあのクソボーズに感謝の気持ちってのを伝えりゃいいんだろ?至極カンタンじゃねーか。」
「え??」





大きな瞳をさらに大きく開いて、悟浄の顔を近距離でまじまじと見つめる。
そんなの反応をさらに面白がったのか、口元を緩ませて思い切り体を後ろへ後退させた。

いつの間にか壁際へ追い詰められただが、彼の言う”方法”が気になってそれどころではない。
男性本能をくすぐる上目づかいで目の前の彼を見つめる。すると、ゆっくりと顔を近づけて、息を吹きかけるような低温ボイスで囁いた。



「ココロもカラダも捧げちまえよ、そーすりゃ相手があのクソボーズだろーが一発だゼ。なんなら、
俺練習台になってやってもいーけど??」
「ココロもカラダもって・・・えぇ!?」
「もう悟浄、そういう言い方はないでしょう。せめて前菜―――と言った方が、も分かりやすいと思いますが。
どうでしょう、ここは一つ、メインの前に軽く腹ごなしをしておいてもいいんじゃないでしょうか。僕もお手伝いしますよv」
「前菜・・・腹ごなし・・・ってあたしはだから何をあげるのかって話をしてるワケであって、そんな話じゃ・・・。」
「お前の場合、先にカラダから入った方がいいかもしんねーな。ど?ここは一つ俺らで先に手を打っとくってのも・・・。」
「それはいい考えですね。、絶対に後悔はさせませんからv」



勝手に話を進める二人に迫られたまま身動きがとれず、冷や汗を浮かべながらもは抵抗する。
見事なまでの美形二人にここまで近づかれてはさすがのと言えどもタジタジだ。



「ちょっとっ、ちょっ、アンタ達本気なの!?冗談ならやめてよ!!」
「冗談でこんな事言うかよ、俺達本気だぜ?」
「二対一、というのは正直性に合わないんですが、貴女の為なら一肌でも二肌でも脱いで―――。」
「ぬっ、脱がなくていいから八戒!!ってドコ触ってんのよ悟浄っ!!やっ・・・そこっ・・・」





”シャレにならない”という言葉が、絶体絶命のの脳裏をよぎった、その時―――――。



(ガチャ)
「―――貴様ら、俺の部屋で何をしている。」


八戒と相部屋である三蔵、その人だった。



「あ、さ・・・三蔵・・・っ・・・」



悟浄、八戒にギリギリで追い詰められながらも、は必死にドア側の三蔵を見た。

部屋に入った瞬間、目に飛び込んできたのは、あろう事かこの世で一番気に食わない男が少女を襲う姿。
しかもその男の手が、の服の中に侵入しているのであればなおさらだ。

三蔵が愛用の銃を怒りと共に悟浄に向ける。


「・・・河童、遺言なら聞いてやる。何か言い残すことはねぇか。」
「だーーーっ!!待て三蔵!!待て待て!!いいか、コレには深〜いワケがあってだな―――。」
「黙れ。ここは俺の部屋だ。運が悪かったと思って諦めて死ね。成仏しろ。」
「諦められるワケねーだろ!!マジで銃下ろせって!!」
「三蔵いいところに。が貴女に話があるそうですよ。ねぇ??」
「えっ、あっ、うん・・・。」



はそう頷くと、スッと悟浄の手を抜けて三蔵の前まで近づいた。
その重苦しい雰囲気に、他の二人は思わず息を呑む。


「え、えと、あの。その・・・三蔵・・・。」
「何だ、とっとと用件を言え」
「え、えっと、その・・・何だっけ・・・えっと・・・」



いっぺんに色んなことがありすぎて、頭の中が混乱している。自分は一体何を彼に伝えたいのか。
そもそもナゼこんな状況に陥ったのか。

ワケが分からなくなったが、思い浮かんだ事を目の前の三蔵に吐き出した。




「た、食べるならあたしとチョコレート、どっちがいい!?」






しばらく部屋の空気、というか時間そのものが凍りついた。
ニヤニヤと笑みを浮かべていた悟浄でさえ目を点にさせた。八戒は八戒で”おや、まぁ”という表情。

当の本人は、というと、部屋の空気に共鳴するかのようにかたまっている。
その空気の中で、かろうじて口を開いた。



「え、あ、いやそのっ、そうじゃなくて!!」
「・・・・・・。」
「さ、三蔵・・・?ちょっと、あの・・・。」
「・・・・・お前ら、席を外せ。」
「あぁ?なーに言ってんだイキナリ。」
「いいから外せ、10秒数えるうちに出ていかねぇと・・・」
「だーっ、このクソボーズ!!何でも銃向けりゃいいと思ってんじゃねーよ!!」
「ホラ悟浄、三蔵の言う通りにしましょう。後でゆっくり聞かせて貰えばいいじゃないですか。」
「チッ、ったくお前は甘いんだよ。―――へーへ、分っかりましたーん。」



八戒が悟浄にそう促して出て行こうとする。
の目の前を横切った時、八戒は彼女と視線を合わせてウインクした。

(後は頑張ってくださいねvv)


かたまっている自分にそう投げかけた八戒を見て、少し我に還った。そしてこう呟く。



「まさか・・・。」
「何がまさかなんだ?」
「あっ、その・・・あの・・・えっと・・・」



三蔵の紫暗の瞳が、の大きな瞳を射抜く。
しかしそれでも口ごもるに耐えかねて、三蔵は眉間の皺を倍増させた。

すると先ほどの悟浄のように口元を緩ませ、ニヤリと笑った。




「―――・・・らしくねーんだよ。」
「え??」
「さっきチョコレートがどうとか言っていたな。―――コレが答えだ。」
「え、あっ、・・・んっ・・・・・・!?」



肩を強く引き寄せられ何を言う間もなく唇が重なる。
然触れ合った唇と唇が熱くて、意識が遠のいて行きそうになる。





三蔵の唇が、の全てという全てを奪っていった。


自分の身に何が起こったのかも分からずに、は倒れてしまいそうになる。

そんな彼女の体を支える為に、掴んでいた右手を肩から腰へと三蔵が移動させる。
その手はの体を支えて、離さない。


そして左手には、と同じ瞳の色のリボンがかけられた小さな箱。


その箱の中からは、若干ではあるが甘い匂いが漂っている。
だがそんな事は、今のにはどうでも良かった。

目の前の三蔵の唇に酔いしれ、彼の匂いがのカラダの全てを包んでいたから―――――。





◆◆◆



場所はうって変わって外。三蔵に部屋から追い出され、悟浄と八戒の二人はにぎやかな街中を歩いていた。



「ったくよ〜せっかくイイトコロだったってーのに。あんのクソボーズ・・・オイ八戒、お前最初っから分かってたんだろ、
最後にはああなるって事。」
「ははは、まさか。分かっていた、というよりはまぁ、予想はしていましたけどねv」
「同じだろーが!!チッ、俺今回はかなり本気で攻めたつもりだったのによ。」
「おや、僕はいつだって本気ですよ、特にに関してはvねぇ悟浄、三蔵が小さな箱を持っていたことに気が付きましたか?
箱についていたリボン、の瞳の色と同じでしたよ。」
「あぁ、ったくよ〜三蔵サマは。器用なんだが不器用なんだが。」
「僕は絶対に後者だと思いますね。ここ何日も前から、甘いものやお菓子類を見ると気にしていたみたいですから。
―――が誰にあげるのか、気になって気になって仕方なかったんでしょう。本人が気づいていたのかは分かりませんけどね。」
「おいおい、マジかよ。アイツがチョコレートなんて柄か!?」
「実は今朝聞かれましてね、”藍色系のリボンが売っている店を教えろ”って。すぐにピンときましたよ。
さしずめ箱の中のチョコレートはダミーでしょうね。」
「バレバレだっつーの。ったく、そんな回りくどい事する柄かよ、ありえねーだろ!!」
「ははは、それでもどうしてもに気が付いて貰いたかったんでしょう。”忘れているなら力ずくでこっちから―”なんて、
実に三蔵らしくていいじゃないですかvv」
「だっはは、そりゃぁ違いねー。」



そんな会話を繰り返していると、八戒はある店の前で立ち止まった。
店の中からは、甘いもの特有の香りが漂ってくる。


「いいことを思いつきました、悟浄。アレ、大量に買って帰りませんか?」
「アレって・・・チョコレートの山・・・?サルにか?」
「いえ、悟空じゃありません。あの二人にですよ。あの山を見た時の二人がどんな顔をするのか、見て見たいとは思いませんか?」
「―――お前ってホントいい性格してるわな、八戒・・・・・。」





その後、二人が店内に入り大量のチョコレートを買い込んだ事は言うまでもなく―――。

また、笑顔全開で帰ってきた八戒によって、大量のチョコレートを見せられた三蔵がどんな反応をしたのかは―――。








―――――――神のみぞ、知る。


-Fin-


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あとがき


・・・・・スミマセンホント、バレンタインの話をいつ書いてんだ、って突っ込んでくださって結構です。
リクエスト頂いた真樹様!!スススススススススス、スミマセン〜〜〜〜〜ヒィィィィィィィ!!!(土下座100万回)
ホントは旅行行くまでにはUPさせるつもりだったのですが、色々詰め込みすぎた結果がコレです・・・・。
”バレンタインを忘れていたヒロインがパニックを起こし、八戒に相談を持ちかけますが逆に一緒に居た悟浄に
喰われそうになる(笑)”というなんとも救えないお話だったのですが・・・いかがだったでしょうか??
三蔵でリクエスト頂いたのに、三蔵影薄くて申し訳ありません、私の文章力不足です。(泣)
・・・コレ、バレンタインの話には程遠い気がしなくなくも、ない・・・(たいがいバカ/笑)


今回、私にしては珍しく”ちょっとだけアダルティー(笑)”にしてみました。(頭の悪い発言)
ってコレのドコがアダルトなんだ・・・お前アダルトをなめてるだろ・・・。
しかし私にはコレが限界です。コレ以上は書けない、書いててホントに叫びたくなるほど恥ずかしかったですわ、ぐぐぐぐ・・・(照)

今回は特に聞いてたBGMとかはないんですが、ずっと貸してた幻想魔伝のボーカルアルバムが返って来たので
それをかなり聞いてました。(特に関さんの”GAME”を)
頭の中がone more game!!って繰り返されてます。う〜この曲ホントヤバイよ・・・(笑)